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青森地方裁判所 昭和35年(ワ)238号 判決

原告 十和田観光電鉄株式会社

右代表者代表取締役 杉本行雄

右訴訟代理人弁護士 小山内績

被告 南部電鉄株式会社

右代表者代表取締役 三浦道雄

右訴訟代理人弁護士 相内禎介

同 米田房雄

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

第一、確認請求について

一、(一) 被告は、原告の本件確認請求が事実の確認を求めるものであるから、右請求にかかる訴えは不適法であると主張するけれども、一般に営業免許がいわゆる警察許可の性質を有するにすぎない場合であっても、右免許により事実上の自由を回復する者は、その論理的前提として公法上の一般的不作為義務を解除された地位すなわち一個の法律上の地位に立つのであるから、右免許(許可)を受けた者の地位の有無は、単なる事実関係の存否にとどまらず、法律関係の存否として評価されなければならない。まして、営業免許がいわゆる特許の性質を有する場合にあっては、右免許(特許)を受けた者の地位の有無が公法上の法律関係の存否として評価さるべきは当然であり、したがって、後に判示するとおり道路運送法四条による一般乗合旅客自動車運送事業の免許は、特許の性質を有するものと認められるから、被告について、右免許に基く地位の不存在の確認を求めるものに外ならない原告の本訴確認請求が法律関係を対象とするものであることは明らかである。被告の主張は、理由がない。

(二) もっとも、本訴におけるように、右免許に基く法律関係の一方の主体である国を除外して、原告と被告との間で被告につき右法律関係の不存在を判決で確定しても、被告が国(監督行政庁)に対する関係で右判決とは無関係に右免許に基く法律関係により規律されるとすれば、右確認判決は、それだけでは原告によって格別の意味があるものとは考えられず、したがって、この限りにおいては原告に確認の利益(即時確定の法律上の利益)が存在しないもののようにみえ、そして、被告の本案前の主張は、この点をも問題としているものと解される。しかしながら原告と被告との間における右確認判決は、公法上の法律関係に関する訴訟(当事者訴訟)における判決として、関係行政庁を拘束する効力を有するものと考えることにより、この拘束力を媒介として原告に右確認の利益を肯定しうる余地があるのみならず、仮にこの点を暫く措くとしても、右確認請求の対象である免許に基く被告の法律上の地位の有無は、原告の被告に対する本件損害賠償請求を判定するうえでの先決問題を構成するものであるから、この関係から右訴えにつき原告にいわゆる中間確認の利益を認めることができる。すなわち、自動車運送事業の免許は、道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに、道路運送に関する秩序を確立することにより、道路運送の総合的な発達を図り、もって公共の福祉を増進することを目的とする道路運送法が、この目的の下に定める基準に則り付与されるもので、右免許を受けた自動車運送事業者に対し、その営業につき各種の義務を課するとともに、これを監督官庁の積極的かつ広汎な範囲にわたる監督の下に置く反面、右自動車運送事業者に対しその事業の運営に資する種々の権利ないし便益を保障するものであるから、右免許は、いわゆる特許の性質を有するものと認めるべきであって、右免許を受けた者は、自動車運送事業を営む権利を取得するものといわなければならない。したがって、右免許権者の権利は、独占的に保障されているものではないから、競業関係に立つ他の免許権者の出現を違法視することのできないことはもとより当然であるけれども、第三者が免許を有しないにもかかわらず、右免許権者と競業関係に立ち、免許権者の免許に基く事業の運営を害するときは、右第三者の行為は、免許権者との関係においても、直ちに違法の評価を受け、不法行為となるものと考えられる。これを本件についてみると、一般乗合旅客自動車運送事業の免許を有する原告と競業する被告の行為をもって不法行為とする原告の損害賠償請求については、被告が右免許に基く地位を有するかどうかが先決の法律関係を構成するわけである。そうすると、原告に本件確認の訴えについて、仮に一般の確認の利益が認められないとしても、中間確認の利益が認められるのであって、右損害賠償請求の訴えと併合審理することができる限りにおいて、原告は、右確認の訴えにつき確認の利益を有するものというべきである。そして、右確認請求は、公法上の法律関係を対象とするものであるから、一般民事事件に関する右損害賠償請求とは訴訟手続を異にするものであるが、両請求は、いわゆる関連請求にあたるものとみるべきであるから、その併合もまた許されるものと解すべきである。

(三) そうすると、原告の右確認請求にかかる訴えは、適法であるといわなければならない。

二、以下、本案について判断する。

(一)  被告が昭和二七年四月三日付で運輸大臣から自動車運送事業の免許につき確認の行政処分を受けたことについては原告の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべく、弁論の全趣旨によると、右確認の行政処分は、被告が道路運送法(昭和二二年法律第一九一号以下単に旧道路運送法という。)の規定に基き有する一般乗合旅客自動車運送事業の免許につき道路運送法施行規則(同二六年運輸省令第七五号)七一条の規定によりなされたものであることが明らかである。そして≪証拠省略≫によると、被告が確認を受けた右自動車運送事業の免許の中には、本件係争区間を含む路線として、路線名三本木線(国道廻り)、起点三戸郡五戸町字観音堂一四番地一号、終点上北郡三本木町字下平二五番地、主なる経過地伝法寺、粁程一五・〇粁の路線の一般乗合旅客自動車運送事業の免許の含まれていたことが認められる。もっとも、この点について、原告は、右路線の起点から終点までの距離が一六・一キロメートルであるところ、右確認は、右路線のうちの一五キロメートルについてなされているにすぎないから、右路線のうち本件係争区間の路線に関する部分については、右確認がなされていないと主張するけれども、同乙号証の二および三の記載によると、右確認においては、右路線の起点から終点までの区間の距離をたまたま一五キロメートルとしているだけで、右区間中の一五キロメートルの部分を限定する趣旨のものでないことは明らかであるから、原告主張のように解する余地はない。

ところで被告に対する運輸大臣の右確認の行政処分が講学上いわゆる準法律行為的行政行為の一である確認行為に該当するものであることについては、多言を要しない。したがって、処分行政庁が誤った認識判断のもとに確認行為を行えば、右確認行為が違法のものとなることは当然であるが、この違法の瑕疵が重大かつ明白で右確認行為を無効ならしめる程度のものであるときは格別、そうでないかぎりは、権限を有する官庁の処分による取り消しまたは変更の処分をまたずに、単にその違法を理由として、右確認行為により確認されたところを否定し、これと異なる内容を主張することは、許されないものといわなければならない。しかして、本件において、運輸大臣の被告に対する右確認の行政処分がその後取り消しまたは変更されたことについての訴訟資料はないから、これが無効の行政処分と認められないかぎり、右確認を受けた被告は、道路運送法施行法(昭和二六年法律第一八四号)一一条および前記同法施行規則七一条一項一号の規定により、道路運送法(同年法律第一八三号、以下新道路運送法という。)に定める一般乗合旅客運送事業経営の免許を受けた者とみなされることになる。

(二)  そこで、運輸大臣の被告に対する右確認の行政処分に無効の瑕疵と認むべきものがあるかどうかを、原告の主張する事実に基いて検討する。

1、前顕≪証拠省略≫によると、右確認の行政処分においては旧道路運送法による被告の本件係争区間を含む前記三本木線の路線にかかる一般乗合旅客自動車運送事業の免許が、免許年月日昭和四年六月八日、指令番号同六年一〇月二八日承継許可指令第五一五九号によるものとして、処理されていることが認められるところ、その右半面部分の成立については争いがなく、左半面部分についてはその体裁全般から右半面部分と合して一個の文書として真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫によると、青森県知事は、同六年一〇月二八日指令第五一五九号をもって被告に対し乗合自動車運輸営業の承継を許可したが、その許可書には、右営業の七本の路線が掲記され、その末尾の路線として、「一、三戸郡五戸町、上北郡三本木町字」との記載があり、以下の文字は紙面が欠損して読み取れなくなっているけれども、一部残存する文字の部分から、右の記載に続く文字が「下平二四番地」でないものと推認することができる。そうすると、被告に対する右確認の行政処分において、被告が承継した免許営業の路線の始点および終点とされているところと、被告が現に承継した免許営業の路線のそれらとは、町名までが一致しているにすぎず、字名番地の点は、起点においては、単に不明確な個所を明確にしたにすぎないものとみられる余地があるのに較べ、本件係争区間の路線に関係する終点においては、両者に積極的な喰違いが存するものとみなければならない。

2、ところで、≪証拠省略≫を総合すると、被告は、右確認の行政処分のなされる前の昭和二四年六月二三日付でこれと同じ三本木線(国道廻り)の路線につき運輸大臣から被告が自動車交通事業法(昭和六年法第五二号)の規定に基き有する旅客自動車運輸事業の免許の確認(道路運送法施行規則(昭和二三年総理庁令運輸省令第二号)五条による。)(以下前者の確認を昭和二七年の確認、後者のそれを昭和二四年の確認という。)を受けたことが認められるところ、右確認の行政処分の法的性質は、昭和二七年の確認のそれと同一のものと解されるから、これが無効の行政処分と認められないかぎり、右確認を受けた被告は、旧道路運送法附則三条、道路運送法施行規則(昭和二二年総理庁令運輸省令第二号)五条一項一号の規定により、旧道路運送法に定める一般乗合旅客自動車運送事業の経営の免許を受けた者とみなされる関係にあったものといわなければならない。しかして、昭和二七年の確認の行政処分が右昭和二四年のそれに基く効果を前提としてなされたものであることは、前記新道路運送法施行法一一条の規定により明らかであるから、昭和二四年の確認の行政処分後に判明した事情で昭和二七年のそれを無効ならしめるものがあれば格別、そうでなければ、右昭和二四年の確認の行政処分の無効を判定することが昭和二七年の確認の行政処分の無効を判定するうえでの前提となるものと考えられる。ところで≪証拠省略≫を総合すると、昭和二四年の確認の行政処分においても、前記1において昭和二七年の確認の行政処分について判示したのと同様の理由により、右行政処分上被告が承継した免許営業の路線の始点および終点とされているところと、被告が現に承継した免許営業の路線のそれらとの間に、不一致が存するものと認められる。しかして、右の不一致は、前判示のとおり昭和二七年の確認が昭和二四年の確認の効果を前提としてなされたものである関係上、右二個の確認の行政処分について、共通のものであることが明らかである。そこで、前判示の理由により、これが果して確認の行政処分を無効ならしめる瑕疵と認められるかどうかを、まず昭和二四年の確認の行政処分について判断する。

3、(1) 旧道路運送法の施行に伴い廃止された前記自動車交通事業法において同法により付与された旅客自動車運輸事業(旧道路運送法にいう一般乗合旅客自動車運送事業に相応する。)の免許においても路線の起点および終点が地名、地番を明示して特定されていたものであることは、運輸省自動車局に対する調査嘱託の結果によりこれを認めることができるけれども、三本木ないし五戸町における右事業の実情については、≪証拠省略≫を総合すると、主として定員一〇人前後の小型バスを使用し、その運行については、定期定路の立前を採りながらも、適当な場所に設けた連絡所によって乗客の要求を知り、各戸口を巡回して乗車させるとともに、降車の際にも同様の便宜を図っていたため、バス運行の実際上は、路線の起点、終点に現在にみられるほどの重要な意味のなかったことが認められ、他方、≪証拠省略≫を総合すると、当時被告の三本木線におけるバス運行の実情、とくに終点が存する三本木地区でのバス運行の実情も右認定のとおりであって、昭和一四、五年頃から同一九年にかけては、本件係争区間の中程に存する三本木稲生町一四八番地(通称八丁目)を中心にバスの発着を行っていたが、三本木町下平二五番地(通称十和田駅前)からバスの発着を行うことも少なくなかったことが認められる(≪証拠の認否省略≫)。また、(2)≪証拠省略≫を総合すると、被告が昭和一七年三月原告からその免許営業である「三本木五戸間」の旅客自動車運輸事業を二万七〇〇〇円の対価で譲り受けたことおよび原告が右譲渡前右路線の営業については、訴外江渡喜一郎に自己の免許営業名義を貸与し、同訴外人をして十和田駅前から五戸駅前までの区間の旅客自動車運輸事業を行わせていたものであることがいずれも認められ、他に右認定に反する証拠はない。さらに、(3)≪証拠省略≫を総合すると、原告は、従来被告が本件係争区間の路線につきいわゆる運行の実績を持たないことを理由に、被告の右路線部分の運行に異議を立ててきたものであるが、被告が右路線部分についても免許とその確認を得ているものであることについては、これを是認していたことが認められる。以上認定の各事情に照らして昭和二四年の確認の行政処分に存する前示路線範囲の認定の誤りを考えるに、前記の不一致は、前判示のとおり被告が同六年承継したものとされる免許営業について定められた路線の範囲を基準とするときに認められるものにすぎず、その後、右認定の事情からして、被告は、右従前の免許営業とは別に、原告から本件係争区間の路線を含む路線についての免許営業を承継したものと認めるのが相当とされる状況にあったのであるから、右確認の行政処分における確認内容は、その基準時点において、被告の現に有する免許営業の路線の範囲と一致していたもので、実質的には誤認がなかったものと評価できるのみならず、前示不一致そのものに即して考えても、右不一致は、同一町名内の地点間に存するものにすぎず、そして、本来の地点を的確に判定しうる資料を欠く反面、確認された地点が四囲の事情からみて妥当とされるものであったことは、前記認定の各事情に徴し明らかである。したがって、右不一致に基く確認の行政処分の瑕疵は、客観的に明白なものということができないから、いずれにしても、昭和二四年の確認の行政処分には、無効の瑕疵を認めることができない。

4、そうすると右昭和二四年の確認後、昭和二七年の確認がなされるまでの間に、右免許の路線範囲認定上の瑕疵が客観的に明白になったことを認めうる何らの証拠はないから、右昭和二四年の確認に基く効果を前提としてなされた昭和二七年の確認の行政処分も、右路線範囲の認定の誤りを理由に、これに無効の瑕疵があるものということができず、他に無効の瑕疵と認めるべきものがない。もっとも、原告は、昭和二四年の確認の行政処分のあった後、本件係争区間の路線についての被告の運行不実施を理由に、被告が右路線部分の免許営業権を喪失したと主張しているところ、昭和二七年の確認がなされる以前に右営業権喪失の効果が生じたものとするかぎり、これを看過した右昭和二七年の確認の行政処分は、瑕疵を帯びることになるが、後記(四)に判示の理由により、右原告の主張は、認められないから、この点の瑕疵について検討する余地がない。

(三)  結局、被告は、前記(一)の後段に判示の理由により、右昭和二七年の確認を受けたことに基き、本件係争区間を含む路線につき新道路運送法に定める一般乗合旅客自動車運送事業経営の免許を受けた者とみなされ、その免許を取得したものといわなければならない。

(四)  原告は、被告の右免許に基く権利のうち本件係争区間の路線に関する部分については、被告の永年の運行不実施により失権効を生じ、または被告がその営業を廃止したものとみなすべきであると主張するけれども、冒頭に判示のとおり自動車運送業の免許を受けた者は、右事業を営む権利を取得する反面、道路運送法が所期の公益を実現するため、右事業を実施することが義務にもなっているのであるから、免許を受けた者が、恣意にその権利を放棄することの許されないことは当然であり、また運輸大臣の許可を受けずになされた右事業の廃止はその効力を生じないし、その免許も効力を失わないものであることは、法の直接の規定から明らかである(新道路運送法四一条一項、四四条二号、旧法二八条五項、三一条四号参照)。免許事業者の恣意による長期間の事業不実施に失権の効果を結びつける見解は、右事業の廃止の自由を認めて免許の効力を失わせることに帰し、とうてい認めることができない。もっとも免許事業者が長期間右事業実施の義務を履行せず、他方監督官庁もこの事実を認めながら、法律に定める運行実施確保の措置をとらず、その結果、事実上右免許が取り消されたと同様の状況が現出したときは、もはや、免許事業者は、事業実施の権利とともに義務から離脱したものとして、その免許の失効を認めるべきであろうが、本件においては、かかる事情を認むべき何らの証拠もない。かえって、≪証拠省略≫ならびに仙台陸運局に対する調査嘱託の結果を総合すると、被告は、昭和一九年から同三四年一〇月までの間本件係争区間の路線について運行を実施していなかった(このことについては、当事者間に争いがない。)けれども、その間においても監督官庁に対し、右路線部分の運行を実施していることを内容とする所要の業務報告その他の処置を採り、また右運行実施を前提とする運輸協定を原告を含む関係業者との間で締結して、運輸大臣にその認可を申請する等のことがあったため、昭和三三年一一月一七日仙台陸運局は、被告の事業について監査を実施するまで被告の右運行不実施の事実を知らず、知るや直ちに被告に対し運行実施を指示した事実および被告は、それ以前から右路線部分についても運行を実施しようとして、原告に対し再三了解を求めていたが、被告に実績のない路線であることを理由とする原告の反対に会い、やむなく同三四年一〇月に至るまで運行ができなかった事実をいずれも認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。したがって、原告の右主張も採用できない。

(五)  してみれば、被告は、本件係争区間の路線について新道路運送法による一般乗合旅客自動車運送事業の免許を有し、右事業を行う権利を有するものであるから、その不存在の確認を求める原告の本訴確認請求は、理由がない。

第二、損害賠償請求について。

右請求に対する被告の本案前の主張が理由のないことについては、あえて多言を要しないから、本案について判断するに、原告の右請求が、被告に本件係争区間路線についての一般乗合旅客自動車運送事業を営む権利の存在しないことを前提とするものであることは、第一の一の(二)に判示したとおりであるところ、被告に右権利の存することは、第一の二中に判示したとおりである。そうすると、右請求は、前提においてすでに失当であり、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。

第三、よって原告の本訴各請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上守次 裁判官 井上清 森谷滋)

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